しげるがちょっときもいです。あと恥ずかしいです。アカ南風味?
続き書くなら18禁かな・・
というか、文体やらテンションが安定しなさすぎなのでそのうちもっとちゃんと修正しますw
やっぱこまぎれで書くのはよくないな。
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「お前、意外と甘いもの好きなんだな」
ちゃぶ台に片肘をつき、自身は湯呑みから緑茶をすすりながら南郷はつぶやいた。
目の前には昨日八百屋で鉢合わせた近所の奥さんが、あら~v南郷さんこんなところで寄寓ねぇお仕事忙しいのかしら少し痩せたんじゃなくて?あ、今ちょうどご近所さんにって配って歩いていたんだけどこれ、作り過ぎてしまったモンブラン、よかったらもらってくださらない?と押し付けて寄越した黄色いケーキがみっつ、かわいらしい箱のなかに収まっている。
はぁ…ため息のような吐息を漏らし、赤木は眉間にしわを寄せる。
この人、多分わかってない。
「…そんなに好きってほとじゃないけど、」
右手にわしづかんだ、作り過ぎちゃったの~!にしてはあまりに丁寧な作りのケーキをひとくち食む。
ちゃぶ台を挟んで左ななめ向かいにいるいい年したおやじは赤木の食いっぷりにご満悦の様子で、両の掌で湯呑みを挟み暖を取りながらにこにこと微笑んでいる。
ああ、吐き出してやりてぇな
その顔を横目で見遣りながら赤木は不穏なことを考える。が、その衝動は実行されないままにねっとりしたクリームと共に喉奥に飲み込まれた。
そんなことをしてしまったら目の前にいくつも残っているこのあまったるい砂糖の塊のような物体が恐らく南郷の口に入ることになるだろう。それは嫌だ。お断り申し上げつかまつる。
右半分ほど空間の空いた箱をじとりと睨みながら赤木は敬語としては明らかにおかしな言葉遣いでもって何かに対して却下を申し立てた。
胸がむかむかする。いかにピカロといえども特に好きでもないし思い入れもない食べ物を半ダースも食えるものではないのだ。
もともと栗は嫌いではないかった。いや、他の食い物と相対的に比べてみるとむしろ好きな方だといえると思う。それは、ある記憶に起因していた。
以前、赤木がまだ中学生だったころ。人生の転機ともいえるあの雨の夜から数日の間、南郷と共に過ごした。その初日、眩しい朝日に目をすがめながら共に歩いた商店街で一番に店を開いていたのが甘栗屋で、そこに一番に通りかかったのが赤木と南郷だった。
あの時買ってもらった栗。中を開くと湯気の立ちのぼるほど焼きたての栗を歩きながらいくつかむいてもらい、口に運んだ。その上品な甘さや少し固くて弾力のある食感、炒りたての香ばしい香りを、南郷のハの字になった眉と少し嬉しそうに細められた目を横目に見遣りながら味わった。悪くなかった。
あれ、また食いたいな。
もしそう言ったならば恐らく南郷はすぐにでも買いに走ってくれるだろう。
茶色い紙袋いっぱいに入った粒をちゃぶ台にいくつか取り出し、短い爪で栗の薄いけれど手ごわい外殻に傷をつけ、ピシと音を立てて大きく割り裂く。何個かに一個はうまく割れてくれず、捻り切ろうと捩ったところで身ごと二つに裂けてしまうのはご愛嬌。太い指先で中身を掘り出そうにもうまくいかず、結局そのふたかけらはオレが食べることになるのだ。残しちゃもったいないからな、南郷の台詞がよみがえる。ああしかし、その言葉を受けて今食べるとしたらあっちの方がいいな。栗の剥き過ぎで爪の隙間に果肉の挟まった南郷さんの指……。
南郷の指は、数年前借金を背負い困窮していたあの頃に比べるとさらに肉感が増した。まともな社会生活を送ることによる生活の改善からくる血色の良さなどが起因しているのだろう。実にさわり心地がよさそうである。
突然のびたこの手に、なんだと南郷は声を上げる。その手の厚み、いくつも皺の刻まれた掌を目の前に引いて揉んでみると、流石に不審そうにこちらを覗きこんできた。
「―――おい?」
心配そうな声を聞きながら、クククと笑いを漏らした。
ああ、なんてうまそうなんだ……!
「おい、アカギ?」
大丈夫か?心から心配そうな声が降って来た。
顔を上げたアカギの潤んだ瞳に南郷は一瞬たじろぎ眉を寄せる。
「…南郷さん、お茶おかわり」
「お、おう!」
台所へといそいそと足を向ける南郷の背を見ながら赤木は常にない敗北感を味わっていた。
どんなに甘美だろうと過去の思い出や妄s想像では目の前の現実は覆らない。当然知っていたし、普段ならばその事実から目を逸らすことなどありえなかった。
だが目の前の現実はまるで道をふさぎ背を向けて動かないぬりかべのように立ちふさがって動かない。さてどうしたものか、アカギは考える。どうにかして突破口を探さねばならない。いっそ捨ててしまおうか。思うが、それは却下だと即思い直した。そんなことをしては、南郷は例の女に後ろめたい思いを抱かざるをえないだろう。そういった感情というのは容易には拭い去れないもので、今後女やモンブランを見るたびにそれがぶり返し、いずれはその感情が橋渡しとなり、女=モンブラン=栗と全てイコールで結びつけられ兼ねない。
それは面白くない。
赤木にとって栗とはすなわち南郷との思い出だった。思い出などというものを大切にするような性質ではないが、しかし自分がそれから彼という人を連想するのに対し、その彼がそれを見たときに連想するのが自分でないのではどうにもくやしい。子供じみた思考である自覚はあったが、これは譲れないと思った。赤木の歩んできた人生、過去という変え難いものの中で、あたたかい記憶というのはそう多くは無かった。同じく、それを与えうる人間も。だからこそ、それがひとかけらでも失われてしまうのは惜しいような気がするのだ。
「ほら」
茶を汲んだ南郷がちゃぶ台に戻って来て、心配そうに湯飲みを差し出した。
手になじむ、使い込んだ素焼きの器を握り締め、暖かい茶を一口飲んだ。ほうと一息つく。
さて、
「どれ、俺も―」
伸ばされた南郷の手を、湯飲みを持っていないほうの手でひっつかむ。
驚いて、南郷は先ほどから不審な行動ばかり取る赤木の顔をまじまじと眺めた。そこで、おや、と目を見開いた。
つかまれた手をやんわりふりほどき、赤木の口元に手を伸ばす。
「おべんとうついてるぞ」
あれ、この場合お弁当とは言わんのかな。デザートだしな。ぶつぶつつぶやいて苦笑いした。
「……」
南郷はいつだって、実にうかつだった。咄嗟に思いついたことについてはほとんど躊躇わない。彼の太い親指の先端に拭われたクリームを認め、赤木は思った。
湯飲みを静かにちゃぶ台に置いた。
引きかけた南郷の手をもう一度引っつかむ。
いくつかの問題を一挙に解決できるすばらしい方法を思いついたのだ。
きっとそれは、彼の中に鮮烈に焼きつくだろう。